ハードウェアウォレットTangemはレーザー攻撃で破られたのか ── EAL6+チップでも絶対安全とは言えない理由

※この記事は2026年8月7日時点で確認できた情報を基にしている。今後、TangemやLedger Donjonから追加の技術情報が公開される可能性がある。

2026年7月、ハードウェアウォレットTangemに対するかなり衝撃的な研究結果が公開された。

発表したのは、Ledgerのセキュリティ研究チーム『Ledger Donjon』。

Tangemカードを物理的に分解し、内部のチップへレーザーを照射することで、本来のアクセスコードを知らなくても、攻撃者が決めた新しいアクセスコードへ変更できたという。

成功すれば、そのカードを使って取引へ署名し、紐づいている暗号資産を送金できる。

「ハードウェアウォレットをレーザーで突破した」

これだけ聞くと、かなり怖い。

しかも、Tangemカードで使われているSamsung製Secure Elementは、EAL6+という高い水準のセキュリティ評価を受けたチップファミリーに属している。

私は「EAL6+まで取得したSecure Elementなら、物理攻撃にもほとんど破られないのではないか」と単純に考えていた。

しかし今回の研究を見ると、話はそれほど単純ではなかった。

一方で、「Tangemを持っている人は今すぐ資産を逃がさなければ危険だ」という話でもない。

今回報告された攻撃には、Tangemカードそのものを入手し、カードを切り開き、チップを露出させ、高度なレーザー装置と専門知識を使う必要がある。

Ledger Donjon自身も、個人の攻撃者が簡単に実行できるものではないと説明している。

Tangem側も、実験そのものを全面否定するのではなく、一般利用者にとって現実的な危険性は極めて低いという立場を示している。

では、

  • Tangemカードでは何が破られたのか
  • レーザー攻撃とは何なのか
  • EAL6+なのになぜ攻撃できたのか
  • Tangem利用者にとって現実的な危険なのか
  • EAL6+という認証には何の意味があるのか


初心者である私なりに、一つずつ整理してみることにした。

結論を先に書く:「脆弱性の発見」と「自分の資産の盗まれやすさ」は異なる

今回の問題を簡単にまとめると、こうなる。

Ledger Donjonは、Tangemカードを物理的に入手し、チップへ非常に短いレーザー光を正確な場所・タイミングで照射することで、本来通らないはずの認証処理を通過させた。

秘密鍵そのものをチップから読み出したわけではない。

代わりに、Tangemのアクセスコードを攻撃者が決めた値へ変更し、そのカードを使って取引へ署名できる状態にした。

ただし攻撃には、

Tangemカードそのもの

カードの分解

専門的なレーザー設備

ハードウェアセキュリティの高度な知識

攻撃位置やタイミングを探すための事前研究

が必要になる。

Donjonが使用した研究設備は約25万ドルとしているが、これは「攻撃には必ず25万ドル必要」という意味ではなく、Donjonが今回使った実験環境のおおよその費用である。

そして今回、私が最も重要だと思ったのは「脆弱性が存在することと、自分の資産が現実的に簡単に盗まれることは同じではない」という点である。

そもそもTangemとは

Tangemは、クレジットカードのような形をしたハードウェアウォレットである。

一般的なハードウェアウォレットのような画面、USB端子、バッテリーを持たず、スマートフォンへNFCでかざして使用する。

カード内部にはSecure Elementと呼ばれる、秘密情報を扱うための専用チップが入っている。

Tangemの標準的なseedless設定で新しいウォレットを作る場合、秘密鍵はカードのSecure Element内で生成・保管され、暗号資産を送るときの署名もチップ内部で行う。

なお、Tangemでは任意でシードフレーズを生成・インポートする方式も選べ、その場合は秘密鍵の生成経路が異なる。

秘密鍵そのものをスマートフォンへ渡さないことが、Tangemの安全設計の中心である。

Tangemでは、リカバリーフレーズを作らず複数枚のカードをバックアップとして使う「seedless」の設定も選べる。

そしてTangemの大きな特徴の一つが、ファームウェアを後から更新できないことである。

これは意図的な設計だ。

後からファームウェアを書き換えられなければ、悪意のある更新プログラムを送り込まれる経路を減らせる。

しかし、出荷後にファームウェアの問題が見つかっても、既存カードへ修正版を配れないという反対側の弱点もある。

今回、そのトレードオフが現実の問題として表面化した。

Ledger Donjonは何をしたのか

Ledger Donjonが2026年7月9日に公開したのは、「Laser Fault Injection」、略してLFIという攻撃である。

日本語にするとレーザー・フォールト・インジェクション攻撃などと呼ばれる。

名前は難しいが、考え方は比較的単純だ。

コンピューターの中では「条件が正しければ先へ進む」「条件が間違っていれば拒否する」という判断が、ものすごい速さで繰り返されている。

Tangemカードにも「このカードは今、アクセスコードを変更してよい状態なのか」を確認する処理がある。

Donjonは、その確認が行われるほんの一瞬を狙ってチップへナノ秒単位のレーザーを照射した。

すると、一時的にチップ内部の計算が乱れ、本来なら拒否されるはずの処理を通過させることができた。

初心者向けに例えるなら、門番が「この人を通してよいか」と確認する一瞬だけ判断を狂わせ、通ってはいけない人を通してしまうような攻撃である。

秘密鍵をレーザーで抜き取ったわけではない

ここは非常に重要である。

今回、Ledger Donjonは、TangemのSecure Elementから秘密鍵そのものを読み出したわけではない。

狙ったのは、アクセスコードを変更するときの認証処理だった。

Tangemには、アクセスコードを忘れた場合にバックアップカードを使ってアクセスコードを変更するための復旧機能がある。

通常は、正しい復旧手順を行ったカードだけが以前のアクセスコードを入力せずに新しいアクセスコードを設定できる。

Donjonは、この「本当に復旧を許可された状態なのか」という確認処理へレーザーで異常を起こした。

その結果、古いアクセスコードを知らず、バックアップカードも持っていない状態で、攻撃者が決めた新しいアクセスコードを設定できたとしている。

新しいアクセスコードを設定できれば、そのカードを使って取引へ署名できる。

つまり今回の攻撃は、秘密鍵を外へ取り出すのではなく、秘密鍵を持っているカードを、攻撃者自身が使える状態にする攻撃である。

最終的には資産を送金できるため、結果は重大である。

しかし何が起きたのかを正しく理解するためには、この違いを分けた方がよい。

攻撃にはTangemカードそのものが必要

今回の攻撃は、インターネット越しにはできない。

攻撃者は、対象となるTangemカードそのものを手に入れる必要がある。

つまり、Tangemカードを自宅に置いたまま、海外の攻撃者がネット経由でレーザー攻撃するということはできない。

これは先日取り上げたCOLDCARDの乱数生成問題とは、危険の種類がかなり違う。

COLDCARDでは、問題のあるファームウェアから生成されたシードについて、端末そのものを持っていなくても外部から候補を探索できる可能性が問題になった。

Tangemの今回の攻撃では、カードが攻撃者の手に渡ることが最初の条件になる。

カードを切り開いてチップを露出させる必要がある

カードを盗むだけでも足りない。

DonjonはTangemカードのプラスチック部分を切り開き、内部の金属シールドや接着層を取り除き、Secure Elementのシリコン部分へレーザーを照射できる状態にした。

さらに、より正確に測定するために配線を加工し、独自の評価装置へ接続している。

したがって、Tangemカードを拾ってスマホをかざせば突破できるという話ではない。

攻撃後はカードへ物理的な加工跡が残る。

Donjon自身も、今回の攻撃は侵襲的であり秘密裏に攻撃して元通りのカードとして返すような方法ではないと説明している。

約25万ドルは「必要最低額」ではない

Donjonが使用した研究環境には、レーザー照射装置、電磁波や消費電力を測定する機材、オシロスコープ、独自の評価基板などが含まれている。

Donjonは、その実験環境の費用を約25万ドルとしている。

ただし、Tangemを攻撃するには必ず25万ドルかかると考えるのは正確ではない。

これは、Donjonが今回使用した研究設備のおおよその価格である。

将来、より安価な装置や効率的な攻撃方法が見つかる可能性は否定できない。

逆に、現時点で公開されている方法を一般人が安価なレーザーポインターなどで再現できるわけでもない。

現在分かっている範囲では、専門の研究所レベルの装置と技術が必要な攻撃である。

一度条件を見つけた後は、Donjonの実験では再現できた

では、一度だけ偶然成功したのだろうか。

Donjonによると、最初に攻撃できる場所、レーザーの強さ、照射時間、タイミングなどを探す作業には大きな手間がかかった。

しかし条件を絞り込んだ後は、別のカードでも成功したとしている。

公開された実験では3枚のカードで再現し、条件が決まった後のテストでは100%成功し、1枚あたり準備と攻撃を合わせて約2時間だったと報告している。

ただし、ここには重要な注意点がある。

Donjonが詳細に実証したのはS3D232Aを搭載したカードだった

Donjonの記事で実際の解析対象として明記されているのは、SamsungのS3D232AというSecure Elementである。

一方、Tangem公式サイトでは2026年8月7日時点でもチップ型番の記載が統一されていない。2026年6月23日のTangem CardとTangem Ringの比較記事では両方にS3D350Aを使用すると説明している一方、別の現行商品ページやヘルプページにはS3D232Aとの記載も残っている。

S3D232AとS3D350Aは、どちらもSamsungの同じ認証対象ファミリーに含まれており、ANSSIのEAL6+認証資料にも両方の型番が記載されている。

Donjonは、流通しているTangemカードはすべてこの問題の影響を受けると主張している。

しかし、公開記事で詳しく示されている3枚の再現実験は同じカードモデルに対するものであり、S3D350Aを搭載したカードについて同じレーザー攻撃を個別に再現した詳細な実験結果は、Donjonの公開記事には掲載されていない。

そのため、ここでは「すべてのTangem製品で同じ攻撃が独立して実証済みである」とは書かない。

現時点で正確なのは、「Donjonは流通中のTangemカード全体に影響すると評価している。

一方、公開された詳細な実証はS3D232Aを搭載したカードで行われており、さらにTangem公式サイト内でも現在使用しているチップ型番の記載に食い違いがある」というところまでである。

Tangem側は、今回の攻撃について「一般利用者への現実的な危険度は極めて低い」と反論しているが、Donjonが示した認証回避そのものを「存在しない」と否定してはいない。

EAL6+なのに、なぜ破れたのか

ここが今回最も重要だと思う。

Tangemは、Samsung製のEAL6+認証Secure Elementを採用している。

しかし、ここで大きな誤解をしてはいけない。

「Tangem Walletという完成品全体がEAL6+認証を取得している」という意味ではない。

EAL6+評価の対象になっているのはSamsungのSecure Elementのチップファミリーである。

ANSSIの正式な認証報告書には、S3D350A、S3D300A、S3D264A、S3D232Aなどが評価対象として記載されている。

そして、同じ認証報告書には非常に重要なことも書かれている。

このSecure Elementへ後から搭載されるアプリケーションソフトウェアは、そのチップ認証の評価対象には含まれていない。

さらに、このマイクロコントローラーを使って作られた完成製品全体の安全性を評価するには、完成製品としての評価が必要という趣旨も明記されている。

つまり、「EAL6+のチップを使っている=その上で動くウォレットのファームウェアも含めてEAL6+である」ではない。

今回Donjonが狙ったのも、SamsungのSecure Elementから秘密鍵を直接読み出す攻撃ではなかった。

Secure Elementの上で動いているTangemのファームウェアにある「復旧状態を確認する条件判断」を一時的に狂わせたのである。

これなら、「EAL6+なのになぜ突破できたのか」という疑問にも説明がつく。

認証されたチップそのものの防御力と、そのチップを使って作った完成製品の安全性は別だからである。

ではEAL6+には意味がないのか

私はそうは思わない。

ANSSIの評価では、このSamsung製Secure Elementファミリーについて、高度な攻撃者を想定した脆弱性評価や乱数生成器の分析などが行われている。

認証報告書では、評価対象となった攻撃水準に対して悪用可能な脆弱性は確認されなかったとしている。

一方でANSSI自身が「認証は、製品に悪用可能な脆弱性が完全に存在しないことを保証するものではない」と明記している。

つまりEAL6+とは「絶対に破れないことを証明する称号」ではない。

初心者向けに言い換えるなら「決められた条件と評価範囲の中で、非常に厳しいセキュリティ検査を受けた」という意味に近い。

高い認証を取得していることは重要な安心材料になる。

しかし、EAL6+だからウォレット全体が永久に無敵とまでは言えない。

Tangemのファームウェアは第三者監査も受けていた

ここでもう一つ疑問が生まれる。

TangemはSecure Elementだけではなく、ファームウェアについても第三者監査を受けたと説明している。

Tangemによると、カード側のファームウェアについてはKudelski SecurityやRiscureなどによる独立監査を受けている。

それでも今回の問題は、その監査では発見されなかった。

ただし、公開されているRiscureの監査説明では、ソースコードやアーキテクチャ、NFC経由で利用できる機能やコマンド、ロジック上の問題などが主な評価対象とされている。

今回のようにカードを分解してレーザーを照射する侵襲的な物理攻撃まで、その監査の評価範囲に含まれていたとは確認できない。

ここから分かるのは「第三者監査を受けた=あらゆる攻撃方法を試し終えた」ではないということだ。

監査にはそれぞれ対象範囲がある。

なお、Tangemは2026年にCure53による監査も受けているが、こちらは今回問題になったカードファームウェアそのものではなく、AndroidとiOSのTangem Mobile Wallet SDKが中心である。

「第三者監査済み」という一言だけを見るのではなく、「誰が、いつ、製品のどの部分を調べたのか」まで確認する必要がある。

これはLedgerを含む他のハードウェアウォレットを見るときにも同じだと思う。

Tangem側は何と反論しているのか

Tangemは2026年7月9日、Donjonの発表と同日に公式見解を公開した。

Tangemは主に、攻撃が技術的に可能かどうかではなく、一般利用者に対して現実的に悪用できるのかという点を問題にしている。

Tangem側が挙げている条件は、

カードを物理的に盗む必要がある

カードを分解する必要がある

高価な専門設備が必要

高度なハードウェアセキュリティ技術が必要

最初の攻撃条件を探すために大きな研究コストが必要

攻撃中にカードを壊す可能性がある

というものだ。

さらにTangemは、カード本体には所有者や残高を直接示す情報がないため、拾ったカードに50ドル入っているのか5000万ドル入っているのか攻撃者には分からないとも主張している。

そのため、ランダムにTangemカードを盗み、片っ端からレーザー攻撃するという犯罪には向かないという考えである。

Tangemは、今回のようなレーザー・フォールト・インジェクションによって実際の利用者資産が盗まれた事例は把握していないとしている。

ただし、これはTangem自身による2026年8月7日時点の説明として受け止めるべきであり、世界中で絶対に一件もないことが第三者によって証明されたという意味ではない。

「一般利用者には低リスクだ」と「問題がない」は違う

Tangem側の説明には合理的な部分があると思う。

今回の攻撃は、一般的なフィッシングやマルウェアのように、世界中の利用者へ一斉に仕掛けられるものではない。

端末の現物が必要だからである。

一方で、攻撃が難しいから問題ではないと完全に切り捨てることにも私は慎重である。

たとえば攻撃者が「この人物はTangemに非常に大きな暗号資産を保管している」と知っていた場合は話が変わる。

25万ドル規模の研究設備であっても、得られる可能性のある資産がそれを大きく上回るなら、標的型攻撃として経済的な動機が生まれる可能性はある。

もちろん、だから今すぐ現実にその攻撃が多発するという意味ではない。

重要なのは、一般利用者全体への危険度と、特定の高額保有者を狙った場合の危険度を分けて考えることだと思う。

ファームウェアを更新できないため、既存カードへ修正版を配れない

Tangemカードのファームウェアは、製造時に書き込まれた後は更新できない。

Tangem自身が、悪意のあるファームウェア更新という攻撃経路をなくすための意図的な設計だと説明している。

これは安全性にとって一つの利点である。

メーカー自身でさえ、後から遠隔でカード内部の動作を書き換えることができない。

しかし今回のように、出荷後にファームウェア上の問題が発見された場合、修正版ファームウェアを既存カードへ配ることもできない。

Donjonは、今回指摘した問題について既存カードをソフトウェア更新で修正することはできないとしている。

2026年8月7日時点で私が確認したTangemの公式情報では、このレーザー攻撃を理由に既存利用者全員へカード交換を求める案内は確認できなかった。

Tangemは現在も、「攻撃条件が特殊であり一般利用者への現実的リスクは極めて低い」という立場を維持している。

ここには明確な設計上のトレードオフがある。

更新できるウォレットなら、新しい脆弱性を後から修正できる。

一方で、更新機能そのものが攻撃経路になる可能性もある。

更新できないTangemは、その攻撃経路をなくしている。

一方で、出荷後に見つかったファームウェア上の問題を既存カードへ修正できない。

どちらが常に正しいという話ではない。

Ledger Donjonの発表だから、一歩引いて読む

今回の研究を読むうえで、もう一つ忘れてはいけないことがある。

Ledger Donjonは、Ledgerのセキュリティ研究チームである。

LedgerとTangemはハードウェアウォレット市場で競合している。

そのため、Ledger側の研究チームが競合製品Tangemの脆弱性を公表したという関係性は知っておいた方がよい。

Tangem側も、この点を指摘している。

しかし私は、競合企業だからDonjonの研究は信用できないとも思わない。

Donjonは攻撃に必要な条件や設備だけでなく、

約25万ドルの実験環境を使ったこと

攻撃が非常に高度であること

現物のカードが必要であること

カードへ物理的な痕跡が残ること

個人の攻撃者には現実的ではないこと

まで公開している。

Tangemにとって不利な部分だけではなく、攻撃がどれほど難しいかも書いている。

したがって私は「Ledgerが言ったからTangemは危険」とも「Ledgerは競合だから全部無視する」とも考えない。

技術的に何が実証されたのか。それを現実の犯罪へ使うには何が必要なのか。

両方を見る方がよい。

COLDCARD問題とは危険の種類が違う

最近発覚したCOLDCARDの乱数生成問題も、ハードウェアウォレットに対する信頼を揺さぶるものだった。

しかし、今回のTangem問題とは危険の種類が違う。

COLDCARDでは、問題のあるファームウェアによって生成されたシード自体の予測可能性が問題になった。

Tangemでは、現物のカードへ高度な物理攻撃を行い、認証処理を一時的に狂わせることが問題になった。

COLDCARDは「端末を持っていなくても攻撃が成立する可能性」が重要だった。

Tangemは「カードそのものを攻撃者が手に入れる必要がある」という大きな条件がある。

同じ「ハードウェアウォレットの脆弱性」という言葉でも、利用者が受ける危険は同じではない。

「破られた」という見出しだけでは危険度は分からない

セキュリティのニュースでは「○○ウォレットが突破された」「○○チップが破られた」という強い言葉が使われる。

しかし今回調べてみて「攻撃が技術的に成功した」という事実だけでは、自分にとっての危険度は判断できないと感じた。

私は今後ハードウェアウォレットの脆弱性を見るときに、

遠隔攻撃なのか、現物が必要なのか

攻撃者はどの程度の専門技術を必要とするのか

特殊な設備が必要なのか

一度方法が分かれば大量に実行できるのか

実際の被害例が確認されているのか

既存製品を修正できるのか

メーカーがどのような対応をしているのか

を確認することにした。

今回のTangem問題で私が得た一番大きな判断基準は

「脆弱性があるか」だけではなく「攻撃者が悪用するときに何が必要なのか」を見る

ことである。

Tangem利用者は今すぐ資産を移すべきなのか

2026年8月7日時点で確認できる情報だけから「すべてのTangem利用者が今すぐ資産を移すべきだ」とまでは私は考えない。

今回公表された攻撃には、カードの物理的取得と非常に高度な設備・技術が必要だからである。

Tangemも、一般利用者への実用上のリスクは極めて低いという立場を維持している。

Donjonも、カードが本人の手元にある限り、今回説明した物理攻撃を実行することはできないとしている。

そのため、ニュースだけを見て慌てて全資産を移動し、誤送金など別の事故を起こす方が危険な場合もある。

一方で、

非常に大きな資産をTangemだけに依存している

自分が暗号資産の高額保有者だと周囲に知られている

カードを頻繁に持ち歩く

紛失や盗難への対策をほとんどしていない

カードをすでに紛失・盗難されている

のであれば、今回の研究を踏まえて保管方法を見直す意味はあると思う。

特にカードを紛失した場合は「アクセスコードがあるから絶対に資産へ到達されない」とは考えない方がよい。

今回の研究は、十分な設備と技術を持つ攻撃者であれば、そのアクセスコード自体を回避できる可能性を示したからである。

私の判断:認証の数字だけでなく攻撃条件まで見る

Tangemで使われているSamsung製Secure Elementのチップファミリーは、EAL6+という高い水準の評価を受けている。

それでもLedger Donjonは、Tangemカードのファームウェア上にある一つの重要な条件確認をレーザーで狂わせ、アクセスコードを攻撃者側の値へ変更することに成功した。

私はこの結果を見て、EAL6+には意味がないとは思わなかった。

むしろ、攻撃するために高度な研究設備、精密な加工、専門的な解析が必要だったこと自体、Secure Elementが簡単に突破できる部品ではないことも示していると思う。

一方で、EAL6+だから絶対安全とも考えなくなった。

今回確認したANSSIの認証資料を読むと、その理由ははっきりしている。

評価されているのはチップであり、その上で動くTangem独自のアプリケーションソフトウェアまで含めた完成品全体ではない。

認証は重要である。Secure Elementも重要である。第三者監査も重要である。

しかし、一つの認証、一つの部品、一度の監査だけでウォレット全体の安全性は決まらない。

COLDCARDでは乱数生成の処理経路が問題になった。

Tangemでは物理攻撃を受けたときの認証処理が問題になった。

二つは全く違う事件である。

それでも共通していることがある。

強い部品や有名なセキュリティ機能を搭載しているだけでは、製品全体の安全性は完成しない。

そして同時に、

脆弱性が一つ見つかったから、すべての利用者が同じ危険にさらされるわけでもない。

現物が必要なのか。遠隔から攻撃できるのか。

数千円の道具でできるのか。専門研究所が必要なのか。

大量に攻撃できるのか。狙った一枚へ何時間もかける必要があるのか。

そこまで確認して、初めて自分にとっての危険度が見えてくる。

私は今後ハードウェアウォレットを選ぶときに、

「どんな認証を取得しているか」

だけではなく、

「もし破るとしたら、攻撃者は何をしなければならないのか」

まで見ることにした。

絶対に破られない道具を探すのではない。

どこまでの安全性が必要なのかは、保有する資産額や使い方によって変わる。

私は、自分にとって現実的なリスクを考えたうえで納得できる仕組みを選びたい。

それも、ビットコインを長く守るための自衛だと思う。

※この記事はTangem、Ledgerその他の特定製品の安全性を保証したり、危険性を断定したりするものではない。今回の研究は高度な物理攻撃を扱ったものであり、現在確認されている攻撃条件を理解したうえで判断する必要がある。

※暗号資産の移動やウォレットの変更には、リカバリーフレーズの記録ミスや誤送金など別のリスクがある。セキュリティ情報を理由に操作する場合も、各メーカーの最新公式情報を確認してほしい。

※当サイトは暗号資産の購入を勧めるものではない。暗号資産の購入・送金・保管は、必ず自分で確認して自己責任で行ってほしい。

error: Content is protected !!